父の手術   ステントグラフト内挿術による遠位弓部胸部大動脈瘤の治療

ステントグラフト内挿術とは


父の治療前と治療後の3D−CTデータです。
     術前:瘤があるのが分かります。この時5.5cm位と言われました。
     術後:ステントグラフトの、コイル状のバネが動脈に浮き出ているのが分かります。


 90年代初頭、大動脈瘤を「切らずに治す」方法が開発されました。これは脚の付け根の動脈からカテーテル(細い管)を入れ、その中をステントグラフトと呼ばれる折り畳まれた特殊な人工血管を通して動脈瘤の部位まで運び、放出します。ステントグラフトは、金属バネの力と、患者自身の血圧によって広がって、血管内壁に張り付けられるので、外科手術のように直接縫いつけなくても、自然に固定されます。この方法では、大動脈瘤は切除されず残っているわけですが、瘤はステントグラフトにより蓋をされることにより、瘤内の血流が無くなって、次第に小さくなります。また、たとえ瘤が縮小しなくても、拡大を防止できれば破裂の危険性がなくなります。ステントグラフトによる治療では、手術による切開部(脚の付け根部分)を小さくすることができ、患者さんの身体にかかる負担は極めて少なくなります。もしステントグラフトが何らかの原因でずれた場合は、ステントグラフトと血管のすき間から血液が流れ込むようになり、治療目的が失われます。この場合は、 新たにステントグラフトを追加するか、従来通りの外科手術をすることになります。
現在、まだ十数年の歴史しかない治療であるため、従来通りの外科手術程の実績も無いことと、父のように、弓部でしかも瘤が別の動脈に接近している場合、ステントグラフトを固定する場所が無いため、どこでも出来る治療ではないので、なかなか普及していないようですが、外科手術による治療に比べ、はるかに低侵襲なので、今後の普及を期待したいものです。

治療に係わる医療費は、「ステントグラフト内挿術」として健康保険の適応となっていますので、入院治療費の自己負担は低額で済みます。しかし、ステントグラフト自身は、厚生労働省の使用認可が得られておらず、健康保険が受けられません。しかし、実績の少ない治療であることと、これからどんどん普及していく治療であるため、各病院で治療費を研究費として扱っていただける場合があります。日本では現在のところ、一般的に使用するステントグラフトの企業製造されたものがなく、各病院において独自に手作りされている状態です。したがって、人工血管の性能や規格については各病院により異なります。

父の瘤の場所は、動脈が心臓から出て、右腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈と3本に枝分かれしている部分で、左鎖骨下動脈に瘤が近く、ステントグラフトを固定する部分がありませんでした。この治療が出来る医者は少ないと思いますが、更にこのような部位にステントグラフトを留置させるには、重要な動脈を塞ぐことになってしまうので、無理だと言われています。東京の医師は、画期的な方法で、その問題点をクリアしていたのでびっくりしましたが、京都の医師は、医者であると同時に研究開発されている方で、更に画期的なステントグラフトを開発されていて、ステントを留置する際に、塞いでしまう動脈に、1枝付きのステントグラフトにすることにより、血液の流れを止めず、しかも枝によりしっかり固定されるためリークする可能性がぐんと減ります。

ステントグラフト内挿術の欠点は、先に述べたように、十数年程度の実績しかないため、患者の様態の変化や耐久性等の経過データがまだ少ないと言う事と、
どの医者でもできる治療ではなく、かなりの熟練が必要な、いわば曲芸のような治療であることです。
良い点はなんと言っても低侵襲な治療であるため、患者の負担が極めて少ないということになると思います。入院期間にしてもステントグラフト内挿術なら、検査入院も含めて約3週間程度であるのに対し、従来の胸部切開で動脈瘤を切除し、その部分を人工血管に置き換える方法(人工血管置換手術)は、人工心肺も使いますし、合併症の確立が増し、入院期間も1月半から2ヶ月を要すると聞きました。
また治療に際し、更生医療の手続きをしましたが、胸部切開の場合、680万円の費用が掛かります。ステントグラフトの場合、280万円と400万円も安くなります。医療費負担が増えて行く時節ですから、従来の負担金で、2人の命が助かるというのは大きいと思います。つまり、身体にも金銭的にも負担の少ない治療なのです。